右手の考察

 


プシュケの右手で謎解きが停まってしまい、先に進みませんので、ちょっと道草をすることにしました。


まずは図版の説明から。
3人の女性の右手を並べてみました。
右から「春」のプシュケ、同アプロディテ、左はボッティチェリが1489〜90年頃に描いた「受胎告知(ウフィツィ美術館)」のマリアの右手です(比較のために右45°転かしています)。


今日はアプロディテ(ヴィーナス)の右手の話です。
「春」の中で彼女の右手は、よく三美神を指し示すものと解釈されています。
女神が右手をかざすポーズを取っている絵が他にあれば、何方か指摘いただきたいのですが、おそらく彼女にはそのような(アルテミスが右手を掲げるような)スタイルはない筈です。
図版からも明らかなように、ボッティチェリはここでアプロディテに、聖母マリアのポーズを取らせたのです。


聖告(受胎告知)の絵画において、マリアが右手をかざすポーズを取るのはごく一般的で、誰も疑問には思いません。見えないモチーフ(2/18)で取り上げたメッシーナのマリアも、天使が見えないのにこの仕種をしていますね。
ボッティチェリギリシア神話の女神に、聖母の伝統的なポーズを取らせたのです。なぜでしょう?


このポーズが示す意味は「受容」すなわち受け入れる、ということです。
聖告の場合は何を受け入れるのか明白ですが、「エロスとプシュケ」においてアプロディテが受け入れるものは何でしょうか?
答はもちろん2人の結婚です。ゼウスに説得されて渋々だったとは思いますが…


このように、右から2人目の女性をプシュケと仮定することで、「春」に描かれた様々なディティールを次々に解くことが出来ます。
以前(7/30)掲載した梅原猛さんの言葉を思い出して下さい。
「一般に学問において、真理とは何であるかを、一言説明しておく必要があろう。それはもっとも簡単で、もっとも明晰な前提でもって、もっとも多くの事実を説明する仮説と考えて差支えないであろう。」


では、引き続き謎解き(プシュケの右手の解釈)をお願いします。
(snow)