2009-01-01から1年間の記事一覧

坂の上の雲

年の瀬に、久々に閑話といきましょう。 実は今年の春から秋にかけて、小説「坂の上の雲」を読みました(その前には「竜馬がゆく」を)。 TVドラマを意識してのことではなく、単なる偶然です。 昨夜ドラマの第1部が終了し、ちょうど良いタイミングなので、 明…

プリマヴェーラの制作動機

「春」の制作動機が「シモネッタの死」であることを、はたして証明出来るでしょうか。 証明〜までは無理かもしれませんが、 読者に得心いただくことは、不可能ではないと考えています。 その前に、例によって定説を紹介しておきましょう。 美術史家が制作動…

シモネッタ・カッタネオ・ヴェスプッチ

シモネッタ・カッタネオ・ヴェスプッチ(Simonetta Cattaneo Vespucci 1453頃-1476)のことを少し書くことにします。 彼女に関しての記録はほとんど残っていないため、史実に基づく話ではなく、私の個人的見解です。 出鱈目かもしれませんので、信用しない方…

蒼白のゼピュロス(その2)

なぜ「誕生」の西風は肌色なのに、「春」の西風は蒼白なのでしょうか。 この疑問に答えるのに、専門的な知識など不要です。むしろ邪魔でしかありません。 「春」を初めて目にする子どもに、質問したところを想像してみてください。 きっと「お化け」や「気味…

蒼白のゼピュロス(その1)

「絵の右側では、大地の精クロリス(花嫁)が、西風の神ゼヒュロス(花婿)に求愛されて、愛を受けたら、花の女神フローラに変身するという、これまた結婚を祝い表すストーリーになっています。西風の神ゼヒュロスが、まるで死神のようで、これは結婚祝う愛…

プシュケの女陰

刺激的なタイトルにつられて、やって来た方もおられるかもしれませんが、ここはいたって健全なブログです。悪しからず… ボッティチェリはエロスの矢∧の相方、すなわちプシュケの女陰∨の表徴として、アイリス(菖蒲)を選びました。これは誠に当を得た発想だ…

的の探索

「春」の中央、少し奥まった位置にアプロディテ(ヴィーナス)が女王然として佇んでいます。 一般的解釈では、次のように理解されているようです。 ・ヴィーナスは他の登場人物より一歩引いた場所にいてこの無言劇を司る役割を演じている。 ・ヴィーナスの衣…

エロスの矢

よい機会なので、矢の話を続けましょう。 まずは定説からです。以下はサイト本編の一般的解釈から引っ張ってきました。 ・中央の目隠しされたキューピッドはその愛の色矢を三美神の中央の「貞潔」に向かえてつがえ、「貞潔」は左の「愛欲」と右の「美」に導…

プシュケ説の根拠

キャストとテキストの紹介が済み、いよいよ絵の解説へと進むのですが、その前に右から2人目の女性が本当にプシュケなのかどうかを、チェックしておくことにします。 まずは定説に触れておかねばなりません。 古今東西「春」には様々な解釈がありますが、2人…

エロスとプシュケ テキスト(その2)

ここで「春」のテキスト、「エロスとプシュケ」を紹介しておきましょう。 少し長いですが、(ブログの場合2回に分けると前後が逆さまになるので)お付き合い下さい。 なお、作成した文章は、「トマス・ブルフィンチ著、野上弥生子訳 『ギリシア・ローマ神話…

テキスト(その1)

キャストの紹介が終了したので、次はテキストに移ります。 「春」のテキストは、登場人物たちから類推して、ギリシア神話の「エロスとプシュケ」と考えられます。 ちょっと待った〜! と思われる方が居られるかもしれません。 「エロスとプシュケ」にフロラ…

キャスト(その2)

プリマヴェーラの右端、頬をふくらませている青緑色の男性はゼピュロス(西風)です。 今回はキャストの紹介が目的ですので、彼の色に関しての解説は、別の機会に譲ることにします。 さて、最大の難所がやって来ました。 これまでに紹介した7神については、…

キャスト(その1)

プリマヴェーラの登場人物は全部で9人。 1人を除き全てギリシア神話の神々です(厳密には、1人は人間から神に昇格した人物)。 ここで神々の呼び名について、少し予習しておきましょう。 例えば、絵の中央に右手をかざした女性がたたずんでいます。彼女の名…

プロローグ

今日から数回にわたってプリマヴェーラ(図版左)の解説をします。 なるべく、かみくだいて話したいと思いますが、初めてこの絵に触れる方には、理解しにくい部分があるかもしれません。 そんな時は、遠慮なくコメントをお寄せ下さい。お待ちしております。 …

東洋vs西洋

先日(8/24)のこと、息子が見ていたTV番組(世界まる見え)に、フト興味をそそられ、見入ってしまいました。 東洋人と西洋人の脳の働き方の違いは、とても興味深いジャンルです。 音響屋の私が知ってるのは、秋の虫の音を、東洋人は音楽的(風流?)に捉え…

いきなり〜(JR嵯峨野線複線化の怪2)

久々のブログ更新が、まさかこの話題になるとは、全く予期しませんでした。 JR嵯峨野線複線化の怪は、昨年11月20日にupしましたが、その後何ら状況は変化せず、粛々と工事は進み、ついに問題の区間(京都〜丹波口)が供用開始となりました。 写真は京都駅側…

ヴィーナスの誕生

「春」という絵が不幸を呼んだのか。それとも、たまたま完成直後にパッツィ事件が起きたことで、絵の方が割を食ったのか。 真実は誰にも分かりませんが、いずれであったにせよジュリアーノが暗殺されたことで、絵の運命が変わったことは間違いありません。 …

ヘルメスと宝杖(カドケウス)

「エロスとプシュケ」の中にヘルメスが登場するのは次の場面です。 「エロスは稲妻が高い天を刺すような速さでゼウスの前に進んで、歎願いたしました。ゼウスはもっともだと聞きました。そうして恋人たちのために熱心に説いたものですから、アプロディテも承…

ボッティチェリの真意

プシュケPsycheは蝶でした… ところで、前回私が引用した文章は、あれが全てではありませんでした。 スイマセン、実は出し惜しみしました (^_^;) 変だな?と思われた方もきっとおられたに違いありません。 では、あらためて「エロスとプシュケ」の寓意の解説…

フロラ(花の女神)とプシュケ

第3の壺(縦糸⑩)に解答を与える時が、いよいよ近づいて来ました。 私は自著「春の寓意(未発表)」の中に、こう記しています。 「この絵の題名は本当に〈春〉もしくは〈春の寓意:allegoria della Primavera〉なのだろうか。私たちはいまだにこの素朴な疑…

フランドルの画家が描いたアイリス

またちょっと道草をします。 ボッティチェリと同時代のフランドルの画家にヒューホ・ヴァン・デル・グース(1440頃〜1482)がいます。 この画家の代表作が、1483年フィレンツェにやって来ました。 ポルティナーリ家が注文した祭壇画が街に到着すると、この絵…

アイリス(ヒント④解答)

炎の矢は何処(誰)に当たるのか。 古くから議論されてきた問題に、ようやく終止符を打つ時が来ました。 矢は三美神の真中の女神に当たるという説がこれまで有力でした(それって、見たまんまジャン)。 でも、ヒント④の図版をよ〜く見て下さい。矢の延長線…

ヒント④(ボッティチェリの春=プリマヴェーラの謎)

炎の矢

「春」の謎解きも、残すところあと数回となりました。 結局、本編を無視して突っ走り、分かりにくくなってしまったような気もしますが、きっと管理人H氏が、後々丁寧にまとめてくれると思います… 今回は「炎の矢」の解説です。 エロスの矢と言えば、恋を自在…

エロスとプシュケの結婚

2/18付のブログ「見えないモチーフ」で、エロスの「目かくし」の意味が解明し(縦糸⑧の半分)、この絵の中に「見えない」青年のエロスが存在することが判明しました。 それを手掛かりに「プシュケの右手が何故これ程無理な角度に曲げられているのか」を解読…

ジュリアーノ・デ・メディチ

ジュリアーノ・デ・メディチ(Giuliano de' Medici 1453−1478) ロレンツォ・イル・マニフィコの実弟で、騎馬戦(ジョストラ)と(シモネッタとの)恋愛とにおいて有名な美青年(矢代氏)。 ボッティチェリは彼の肖像画を3枚も描いています(図版左から、ベ…

絵を描く時間

「春」の制作期間に関して、私は「絵の制作年について(7/27)」で次のように指摘しました。 『2m×3mのテンペラ画(板絵)で画面一杯に描き込みがある場合、正味の時間だけでも1年近くが必要だと言われています。そこに、構想に要する時間や、その他諸々を加…

右手の考察

プシュケの右手で謎解きが停まってしまい、先に進みませんので、ちょっと道草をすることにしました。 まずは図版の説明から。 3人の女性の右手を並べてみました。 右から「春」のプシュケ、同アプロディテ、左はボッティチェリが1489〜90年頃に描いた「受胎…

言葉に非ず

「私にはそれよりも、ボッティチェルリの芸術的な心情が本能的に行なっている事柄に学者たちが自身の学識を投影し、彼を材料にして全く別個の存在をつくり出しているように思われる。(中略)なるほどボッティチェルリは、学問的な探求欲を誘発されるに足る…

見えないモチーフ(ヒント③解答)

画家は時として「目に見えないモチーフ」を描くことがあります。最も説明しやすい例は「受胎告知(聖告)」でしょう。 「マリアが孕んだ!」 「エ〜ッ、でも私誰ともエッチしてないし〜」 そこで、神様はメッセンジャー・ガブリエルを使わし、彼女に真相を告…