プシュケの女陰

                                    
刺激的なタイトルにつられて、やって来た方もおられるかもしれませんが、ここはいたって健全なブログです。悪しからず…


ボッティチェリはエロスの矢∧の相方、すなわちプシュケの女陰∨の表徴として、アイリス(菖蒲)を選びました。これは誠に当を得た発想だと、私は思います。
4/11のブログ「フランドルの画家が描いたアイリス」で紹介しましたが、同時代の画家ヒューホ・ヴァン・デル・グースもエヴァの女陰を隠すためのアイテムとして、同じ花を選んでいます(図版)。


∧と∨の合体=エロスとプシュケの結婚が間違いなく成立することを期して、ボッティチェリは画面に様々な工夫を凝らしています。
2人の結婚は、この絵における核心部分であることから、矢のアウトラインの厳密さといい、画家のこのシーンへの拘りには、並々ならぬものが感じ取れます。
何が言いたいかというと…
彼はアイリスの花を2輪描いているのです。
左側の花は開き、右側の花は閉じています。併せて、花の向きも重要です。
これが何を意味しているか、お解りでしょうか。
一方の矢∧は、矢筒に残されたものを合わせると数本描かれていますが、炎が点されているのは1本だけで、(幼児=記号の)エロスは今まさにそれを放とうとしています。
この数秒後に何が起こるのか…
どうか、画家のメッセージを読み取って欲しいのです。


さて、本ブログに以前からお付き合いいただいている方は、すぐにピンとこられると思いますが、私が放り出したままの宿題(横糸⑭)があります。4/4のブログを参照下さい。


なぜ矢は的(アイリス)を直接狙っていないのか?


残念ながら、何方もコメントを寄せてくれませんでしたので、この辺で回答することにしましょう(だんだんネタが底をついてきた)。


全体の構図を変えることなしに、矢を的に当てる方法は2つしか考えられません。
①エロスを左右反転させる
②アイリスを左下隅に描く
ところが、いずれの場合も不都合が生じます。
①は、矢&エロスの向きが、物語の進行(左←右)に逆行することになります。
②では、∨がプシュケ本体から遠く、「結婚」が「祝福」の後になってしまいます。
そこでボッティチェリが考え出した解決方法は、
③矢を的と対称の位置に向ける
というものだったのです。
ただし、この回答では必要条件しか満たすことが出来ません。
今一納得できない、と考えられる読者もおられるに違いありません。


では、十分条件を満たす答とは…


映画のワンシーンを想像してもらうのが、一番手っ取り早いと思いますが、
拳銃を手にした人物は、最初に狙いをつけた人を撃つとは限らない、という話です。
もちろん撃ったって構いませんが、それでは何の面白味もありません。
ただし、映画と違って未来の分からない絵画の場合、矢の向きが的を暗示していなければ意味を成しませんが。
つまりここで、画家の頭にセンスのよいアイデア③が閃いた、という訳です。
納得いただけましたでしょうか。


次回はいよいよ、ゼピュロス(西風)のブルーに迫りたいと思います。
(snow)