〈春と誕生〉アブストラクト

6年半ぶりにブログを更新します(もはや更新とは言えないか~しかもなぜかデスマス調)。

イタリア・ルネサンスの画家、ボッティチェリの代表作〈春:プリマヴェーラ〉と〈ヴィーナスの誕生〉。
2枚の名画の制作動機を初めて解明した〈春と誕生〉が完成し、昨年から出版社と交渉中なのですが、これが中々進展しません。

一番の理由は、私が在野の人間であり、この分野における実績がない、ということらしいのですが?!
ちなみに、内容を深読みしてジャッジしてくれた版元は未だありません。

ですが…
目の前に料理を出されて、美味いかどうか尋ねられたら、普通は食べて判断するのでは。
ところが出版業界では、この料理は誰がつくったのか、その人にはどんな実績があるのか~と尋ねるのがしきたりのようです。

そこで、出版社詣では継続するとして、アブストラクトをネット上に公開することにしました。
本論にご興味のある方(料理を食べてみたいという方)、出版に手を貸してやろうと考えてくださる方、メッセージをお寄せください(コメントでも構いませんが、プロフィール中にメアドがあります)。
※英語版も用意しています。ご希望の方はリクエストしてください。

 

                        春と誕生_Abstract

 

サンドロ・ボッティチェリの〈春:プリマヴェーラ〉は、制作後約540年、決定版と言える解釈が存在しない、西洋美術史上第一級のミステリーである。現在は、結婚を祝う絵と考える説が主流のようだ。この絵の謎を解き明かし、そこに込められた画家の「真意」を明らかにする。また、その結果を基に〈ヴィーナスの誕生〉の制作動機を解明し、2枚の絵にどのような関係があるのかを明白にする。

なぜ、〈春〉という絵は解読できないのか。それは、向かって右から2人目の女性を取り違えたからに他ならない。多くの既存説では、彼女はギリシア神話の大地の精:クロリス、あるいはローマ神話の花の女神:フロラと考えられている。しかし、それでは絵の左側を同じテキストで解説することができない。加えて、彼女の右隣の男神が蒼白に描かれている理由も説明がつかない。

本論の骨子は、「画家の視点から、絵をありのままに見る」ということに尽きる。その基本方針に従ってこの絵を分析し、得られた結果を総合すると、彼女がギリシア神話の女神:プシュケ(エロスの妻)であることが判明する。そこで、〈春〉のテキストがギリシア神話〈エロスとプシュケ〉だと考えると、彼女と他のすべての神々との繋がりが明らかとなり、様々な細部(蒼白のゼピュロス、口から吐き出される花々、炎の矢、エロスの目隠しなど)にも説明がつくようになった。

ボッティチェリは〈エロスとプシュケ〉の寓話をテキストに選び、夭折した同時代の女性、シモネッタ・カッタネオ・ヴェスプッチの冥福を祈ってこの絵を描いた。〈春〉という画題は、彼女の死後の幸福を約束するもので、その上、画家は彼女の魂を絵の中に封印しようとした。

ところが、絵の完成から時を置かずして、メディチ家に対するテロル(パッツィ家の陰謀事件)が発生し、注文主であるロレンツォ・デ・メディチ実弟ジュリアーノが落命する。その煽りを受けて、〈春〉は不吉な絵、不幸を呼ぶ絵として親戚の邸に移されてしまう。

数年後、絵が冷遇されていることに気づいた画家は、何とかして彼女の魂をそこから救い出そうとした。しかし、一旦納めた絵を描き直す訳にはいかない。そこで彼が考えついたのは、彼女をヴィーナスとして甦らせることだった。ボッティチェリは自らの手で封印を解き、シモネッタの魂を再び解き放った。その結果としてもたらされたのが、〈春〉と双璧をなすルネサンスの至宝、〈ヴィーナスの誕生〉である。